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Synopsis

 1942(昭和17)年5月、まる4年間の日中戦争従軍(「棗の夢-回想の記 日中戦争」参照)の任務を果たし帰国した春太郎に、マレー農園指導のためシンガポールに渡ってもらいたいとの知らせが石原産業から届いた。壮大な規模の農園を担当するという、夢のような役目だった。当時は太平洋戦争の最中であり、渡航する30パーセントくらいの舟が、米国の潜水艦に沈められているとの噂が流れていた。1944(昭和19)年7月、シンガポールに向かう大海原の航海中、現地の様子を想像し、春太郎は期待に胸を膨らませた。

 シンガポールはまさに異国の地、見るもの、聞くものが違っていた。毎日わくわくした気持ちでマレー農園の指導に当たった。日本軍の占領下とはいえ、現地住民の暖かい心に接し、人種の違いを越えて交流することができた。華僑の青年たち、マレーの住民、インド人、ジャワ・ボルネオ・スマトラなどインドネシアの島々から渡ってきた旅人たちと親密な交流を行なった。元海賊の親方も春太郎には大変親切だった。

 春太郎にはおとぎの国に来たように思えた。しかし、1945(昭和20)年に入ると、日本の敗戦が色濃くなり、あわただしい情勢となってきた。日本からの食糧輸送が困難になった軍は、シンガポールの港で訓練する舟艇特攻隊員のため、石原産業の春太郎に食糧の斡旋を頼んできた。同年5月には、南方総司令部から呼び出しを受けた。マレーが玉砕した場合を想定し、春太郎に対し、10月までにジャングルの共産党本部に入ってもらえないかとの要請であった。            

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